「結局、幸せじゃないんです。
春田さんと一緒にいても、苦しいことばっかりです。
ずっと。苦しいです。」
牧が初めて、春田に本音を言ったシーンだと思った。
これまでずっと、いちばんに春田のことを考え、いちばんに春田のことを思って言葉を発してきた牧。
そんな牧が初めて発した、『自分の』気持ち。
『好き』と『幸せ』が必ずしも両立するとは限らない。
そして、『好き』と『苦しい』が両立することは多分にある。
「忘れてください、俺のことなんか。
俺のことは、忘れてください。」
初めて出た本音の後の言葉。
こんな場面だからこぼれ出てしまったのだろう、『なんか』が切ない。
俺『なんか』。
好きな相手にずっと抱いていた、自分が男だというコンプレックス。
「俺はっ……!
春田さんのことなんか、好きじゃない。」
こんなにも『好き』に変換される『好きじゃない』があるだろうか。
本音を覆い隠すように発される最大の嘘。
春田への嘘。自分の気持ちへの嘘。
言いながらも、大粒の涙が牧の目からこぼれ落ちる。
表情って言葉とこんなに裏腹になれるんだ。って、そんなの切なすぎるだろ。
第6話。
春田と牧の楽しい時間をずっと見ていたいと思った。
楽しそうな春田を、嬉しそうな牧を、何気ないふたりのやりとりを、見ているのが幸せだった。
だけどこの幸せな時間は長くは続かなかった。
お互いに『好き』同士だから一緒にいられるとは限らない。
ある程度の年齢になると、つきあうことはイコール、『相手の人生を変えること』でもあるとわかってしまう。
たぶん牧は、春田が自分のことを好きでいてくれることは、もうちゃんとわかってたんじゃないだろうか。
春田と違って牧は、言葉にされなくても相手の気持ちを察することができる人だ。
おそらくずっとマイノリティだったが故に察するスキルが高くなってしまった(そのこと自体は切ないことだが)人だ。
うん、やっぱり、春田の牧への好意はもう疑っていなかったんじゃないかと思う。牧は。
ただし牧は、『自分がパートナーとして愛され続ける資格がある』という自己肯定感が低い。
相手がこれまで男性とつきあったことのない人だからなおさらだ。
そういう人は、基本その時その時を生きてる。幸せを感じてもすべて『点』なのだ。
『線』にならない。なるはずがないと思っている。
常にこの幸せはいつかなくなるものだと思っている。そんな不安が気持ちのベースにある。
そんな牧に、春田のお母さんの言葉は。
「一人息子だから甘やかしすぎたのかなあ……。
ほんっとにこのままだと結婚できないと思わない?」
『一人息子』という事実は重い。
母親が息子に『(女性と)結婚してほしがってる』という気持ちを、直接言葉ではっきり聞くのもつらい。
もちろん母親としてはごくごく普通の感情で、だからこそつらい。
「私だっていつまで元気でいられるかわからないし、
孫の顔だって見たいじゃない?」
自分の大好きな人の母親が描く『幸せの図』を、自分は描いてあげられない。
自分がそばにいる限り。
この時、牧の頭の中には、ちずのあの言葉が蘇ってきてたんじゃないだろうか。
「牧くんって完璧だよね」「やっぱ完璧だよ牧くん」
……いやいや、俺にないもの全部持ってるのはアンタだろ。
俺が喉から手が出そうなほど欲しいものを持ってるアンタがそれを言うのか。
もちろんこの時ちずは心からそう思って言った。それは牧もわかってる。
それでも切ない。やるせない。
そして牧は見てしまった。春田がちずを抱きしめるのを。
冒頭に戻る。
もちろん、春田の人生を決めるのは春田。
春田の『幸せ』が何なのかを決めるのは春田。
だけど、察することが得意マンは、相手の『幸せ』が何なのかを、うっかり想像してしまう。
牧は何度も春田に聞いていた。「本当に俺でいいんですか。」
自分といることが春田の『幸せ』になっていることに自信がもてなかった。牧は。不安だった。
「本当に俺でいいんですか。」
この言葉は、春田を思いやっているようでいて、実際には自分のための言葉だ。
春田が自分といて『幸せ』だと感じていると確認したかった。安心したかった。
……ねえ、牧、『幸せ』ってなんだろうね?
この作品では、春田が圧倒的マジョリティ、牧が圧倒的マイノリティとして描かれている。
人は誰しも、濃淡はあれど何らかのマイノリティを抱えている。
だから見てる人はみんな牧に感情移入してしまうんだ。
自分の中の『牧』に切ない気持ちを抱き、寄り添い、応援する。
そしてその牧を演じる林遣人は、『牧』を表現する天才だ。
そして同じく春田を演じる田中圭は、『春田』を表現する天才だと思う。
次が最終回。泣いても笑っても5日後に終わる。
副音声で「ドキュメンタリー撮ってるみたい」と演出の方がおっしゃっていた(牧と春田のやりとりにそれくらいリアリティを感じるのは完全同意する)けれど、これはドラマだ。
現実で『ハッピーエンド』はなかなかない。リアルはいつも残酷だ。
そもそも『エンド』はどこになるんだって話もある。
だからこそ、ドラマでは、フィクションでは、多幸感溢れる『ハッピーエンド』が見たい。爽やかな気持ちで見終わりたい。
制作サイドのみなさんに、どうか、どうか、この願いが届きますように。
最後に、普段の記事と大幅にキャラが変わっていることをお詫び申し上げます。
本当に罪深いドラマだぜ、「おっさんずラブ」!
書き忘れてた。
「なんかもう、うるっせぇなあと思って」
は最高でした。ありがとう。
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ドラマ「おっさんずラブ」第6話感想というかひとりごと。1~5話の感想をすっ飛ばしてるけど書かずにいられない
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