※先に「作品」レビューの基本方針を必ずお読みください。
※あくまで私の主観にもとづくものです。またべた褒めはしませんのでご注意ください。
小説家・劇作家の井上ひさしが、広島を舞台にした自身の戯曲「父と暮せば」と対になる作品として実現を願いながらもかなわなかった物語を、
日本映画界を代表する名匠・山田洋次監督が映画化。
主人公の福原伸子役を「おとうと」「母べえ」でも山田監督とタッグを組んだ吉永小百合が演じ、その息子・浩二役で二宮和也が山田組に初参加。
「小さいおうち」でベルリン国際映画祭銀獅子賞(女優賞)を受賞した黒木華が、浩二の恋人・町子に扮する。
1948年8月9日、長崎で助産婦をして暮らす伸子の前に、3年前に原爆で死んだはずの息子・浩二が現れる。
2人は浩二の恋人・町子の幸せを気にかけながら、たくさんの話をする。その幸せな時間は永遠に続くと思われたが……。
(「映画.com」より)
公開日に見たかったけど残念ながら見られず、体調と相談のうえ昨日ようやく見られましたー。
(とはいえ公開からまだ1週間なんですけども)
昨日の映画館。向かう直前に気がついたのですが、「STAR WARS」と「妖怪ウォッチ」で大カオス(爆)。
大袈裟でもなんでもなく、劇場に入るのもひと苦労!すごかった!!
入ってからも、私の入った回はハコ自体は小さめになっていましたがほぼ満員で。
吉永小百合主演や作品の題材もあってか年齢層はかなり高めでした。ご高齢の女性二人組やご夫婦の姿も多く見かけたな。
年齢高めの女性が多いと賑やかですね。……直前までおしゃべりがうるせー!!
予告編聞こえない(涙)。あと携帯。着信音やバイブの音がいいところで鳴る鳴る。
映画館では映画を楽しみたいので最低限のマナーはちゃんとしてくださいほんと(涙)。って愚痴になってしまったぜ。
さて、この先ネタバレありの感想にまいります。
まだご覧になってない方でネタバレを見たくないかたはご注意を。では。
これは伸子のハッピーエンドのお話なんだろうな。と、しみじみと思いました。
切ないけれど、最期はそれほど苦しむことなく息子の浩二が迎えに来てくれて一緒に旅立てた。
浩二が言う、「会うとつらくなる、だから町子に会わない」。
これはまんま伸子にも当てはまって。
伸子だって、例え亡霊だとしてもいったん息子と会ってしまったら、会えなくなってからつらくないわけがないんですよね。
からだがだんだん弱って、死んだ息子の婚約者が別の人と婚約して、亡霊の息子すらももうすぐ会えなくなるかもしれない。
浩二が連れて行ってくれてよかったね伸子、と思いながら見終えました。
そう、最初から。これは伸子にとってはむごい話で。
なかなか諦められない、諦めようと努力している息子に、会うと絶対あとでつらくなっちゃうのはわかりきっている。
「あきらめがわるかとね、母さんは。なかなかあきらめんから出てこられんかったとよ」
……浩二、お母さんは心の奥底ではまだ諦めてなかったんだよ。
母親思いで頭の回転の早い浩二。なのに自分を諦めたと思いこんで表れてしまったのは紛れもなく母親への甘えだろうと。
これが山田洋次監督が描く当時の男子大学生の心情。
いや当時とかじゃなく今でも、もしかしたら男性はずっと母親の前ではこういう「男の子」なのかもしれないですね。
見ながらずっと、男の子って心の中でこんなに母親に甘えてるもんなんだなあって思ってました。
これは私にはわからなかった部分で、新鮮だったなー。
伸子という女性は私にはものすごくリアルで。
しっかりしているようで、亡霊となった浩二に「元気?」と言っちゃう天然なところもあり。
上海のおじさんが自分に気のあるゆえに優しくしてくれることを知りながらあるうまく意味利用しているしたたかなところもあり。
浩二の婚約者だった町子が黒ちゃんという別の人と婚約したら「どうして町子と浩二が逆じゃなかったのか」と言ってしまう黒い部分もあり。
決して聖人ではない。そこがとても伸子のみならず「吉永小百合」を身近に感じさせました。
一方、浩二。こっちは見る人によって感想が分かれるかもと思いました。
二宮和也の浩二は基本的には上手い。
(山田組に出演する役者さんの演技レベルは、「基本的に上手い」以上しか許されない気がします)
ただ、「母への甘え」って一般的にウェットになりがちで。
デフォルトで演技の湿度が高い二宮演技にはところどころtooマッチかなあとも。
山田組かつ相手が吉永さんだとバランス的に演技はウェットにならざるを得ないのかもしれないですね。
あと私が「硫黄島からの手紙」のバランスよく乾いた演技が好きで、題材が同じ戦争ものということで比較してしまったところもあるのかも。
ここは好みの問題も大きいかもしれないです。
他のメイン出演者は、町子役の黒木華ちゃんは、ああ「町子」だなあ、と。堅実に上手い。
ところどころで出てくる上海のおじさんはすごーーーくよかった!!
加藤健一さんが演じるおじさんが、いい意味で作品中の空気をうまーくかくはんしてくれてる感じで、とっても好きでした。
それと浅野忠信演じる黒ちゃん。
出番も台詞も少ないんだけど、いるだけでノーブルな存在感を醸し出していて。
あれだけの役で強烈に脳裏に残るってなかなかない気がします。
違和感をおぼえたのはCGの使い方。
冒頭の、原爆が落ちたシーン、あれは圧巻でした。インク壺が変化する様子で表したのは素晴らしかった!!
(素晴らしい、という表現に語弊があったら申し訳ありません)
ただ、「亡霊があらわれる」というファンタジーを肉づけするためなのか、他にもちょこちょこ使っていましたが、うーん……と。
浩二がオーケストラの指揮をするシーンや応援団のシーンは唐突に感じられてしまったんですよね。
基本「リアル」なほかのシーンから切り離された感があって。あんまりうまく融合してなかったんじゃないかなあと。
そういう意味では最後も、浩二と伸子は自宅で消えてくので終わりにして、教会のシーンはふたりは表れなくてもよかったのかもとも。
白バックの合唱もエンドロールだけとか、なんかもうちょっとうまく混じったらなあというじれったさが残りました。
ちょっと監督が(自らが手がけるのが初めての)「ファンタジー」にとらわれすぎたのかな、という印象です。
リアルな中のさりげないファンタジーでもよかったのになあと。
最後に、あの長崎の家は素晴らしかったなあ。
長崎ならではの坂の上にある感じ。中も日常生活が滲み出ていて。ちょっとハイカラなステンドグラスがはめられていたりもして。
戦争さえなければ、原爆さえ落ちなければ、あの家には今も笑い声が絶えなかったのかもしれない。
結婚しても浩二が「かあさーーーん!」と叫んでいたのかもしれない。
そんな浩二を伸子と町子が笑っていたのかもしれない。……そう思うと切ないです。
(写真は一昨年の年末年始に行った長崎の稲佐山の宿から)
↧
映画「母と暮せば」【ネタバレあり感想】
↧